Log(きょうごく)

きょうごくのLog

都内在住の大学生の日記です。

本棚

 本棚の左上からなめまわすように見ていく。ひとつひとつ、ゆっくりと、順番に。見られている本たちも普段は一瞥だにもらえないものだったりするから、緊張して背筋を伸ばしているような気がする。そう思うと、なんだか自分が立派な人間になったように思えて、気分は俳優の卵に淡々と合否を告げる審査員で、君には見るところがあるのかい。両手を腰において、時には膝をおって、書店の海外文庫の本棚の前に陣取ってしばらくそうしていた。やはり彼らを気に留める人は少ないのだろうか、同じ本棚の前から動かない僕に迷惑そうな視線をよこす人や遠慮がちに横から物色してくる人はいなかった。

 女性のショッピングはそれそのものが手段ではなく目的となっているとよく茶化されるように、僕にとって本を買うことはそれ自体が目的となることが多くて、つまり買うはいいが結局読まないなんてことはざらにある。

 この日も、ネットで有名な海外の作品を事前に調べまくり、気になる本をピックアップして、そのうえで本棚のオーディションを開いたのだ。

 これは気になっていたやつだ。これは見覚えがあるけど、なんだっけ。『ロリータ』とはなんて興味の引くタイトル。

 そんな調子でミーハー全開。ブックオフと6月に入ってようやく再開したパルコにある書店とで合計10冊購入した。10冊と事前に決めておくと無駄遣いの抑制になるし、それこそ本当は合格をあげたい子が他にもたくさんいるのに、なんて葛藤が楽しめる。

 おそらく1年経っても10冊のうち1.2冊は開きすらしないだろうし、さらに1.2冊は途中まで読んで終わりなんてことになるだろう。でも本棚に本を並べてほとんど満足してしまうのだから仕方あるまい。海外の本ばかりを買ったのも、僕の本棚には海外の本があまりないなあと思ったからだ。間違っても僕があまり海外の本を読んだことがないことが大きな理由ではない。

 外から見たら、綺麗だから。

 そうそう、僕が自分の家から半径1km圏内から出たのは2か月ぶりだった。だってスーパーもコンビニも郵便局もその圏内にあったもので。本だって必要なものはネットでもKindleでも買えるしね。

 しかし、その圏内で独りでも生きていけてしまう自分が恐ろしくて可哀そう。世の中ではコロナ解禁と言わんばかりに軽率にも遊び回る若者が問題視されたりするみたいだけど、いっそ彼らが羨ましい。満員電車に揺られて歌舞伎町まで行けば、誰かが朝まで一緒にお酒を飲んでくれるだろうか。きっと不謹慎を肴に飲むお酒は美味しくて、火照った顔が早朝のビル風に吹かれたら痛快だろう。それでコロナにかかることができたなら、誰かからの心配なり説教なりを受けて誇らしいのだ。

 意外にもパルコの書店には大勢の人がいた。たくさんの本棚の間からいろんな音が聞こえてくる。どこかから僕と同じ胸を締めつける音が鳴っている。でも、確かに鳴っているはずなのに、雑誌コーナーで英語を喋る外国人カップルが、友達同士で写真集をみてきゃっきゃと言っている女の子たちが、半径1km圏内の世界なんて知らなそうで、きらきらしている。それとも彼らにだって、読まずに並べた本がたくさんあるのだろうか。