Log(きょうごく)

きょうごくのLog

都内在住の大学生の日記風ブログです。いや日記です。

【日記】ツっこんでくれなきゃ恥ずかしい

 なんど確認してみても表示された温度は一向に下がらない。退屈すぎて目の前のペアの学生の頻繁にこみあげるあくびでも数えようという気にすらなりそうだ。窓の外を見なくとも,朝から静かに降っていた冷たい雨が激しさを纏っていくのをよく感じる。

 その日の実験はダイオードの電流ー電圧特性の温度に対する変化を測定するもので,片対数における電流ー電圧特性から理想係数を,電圧ー温度特性から温度係数及びエネルギーギャップを求めるものだった。

 知らんわとか言って帰らないでね。ちょっと難しい言葉並べて知的な理系アピールしてみたかったからだけだから勘弁下さい。言い直すと,温度を上げながら電流とかを測っていた。

 問題は,その恒温槽というものの温度を上げるのにひどく時間を必要とすることだった。その実験の時間の使い方の半分は「温度が上がるのを待つ」だった。

 そのためただでさえすこぶる暇な実験だったのだが,僕たちのペアは開始1時間以上経過してからミスが発覚しやり直しをくらっていたため追いつきたくても急ぎようのない生殺し状態だった。

 しばらくすれば他のペアは測定を終え2人また2人と帰宅し,とうとう実験室には僕とペアの学生,あとは僕達に干渉する様子のない物静かな教授が1人だけになってしまった。

 しかしできることは「待つ」ことのみ。早くおうちに帰りたいなんて思いながらじっと温度が上がるのを待つ。見つめる鍋は煮えないなどとと言うがまさにそのままで,早く上がりやがれと思って見つめれば見つめるほど悠々として態度が変わらない。早く終わらないかなあと終始つぶやいていたが,1番帰りたいのは教授だろうと思うと少し申し訳ない。

 大きな顔をして居座っている暇の間に,特別不仲なわけではないが実験でしか顔を合わさないペアの学生と雑談をしていた。4月時点でこそ初めましてこちらこそのよそよそしい関係だったが,今では変な気を使うことはない。少なくとも自分はそう感じている。

 どんな話題だったか僕はペアに聞いた。

「学校って何日まであるんだっけ」

「確か8月9日とかだったよ,金曜の」

 ふっと頭に舞い降りるものがあった。教授が一応いるとは言え,2人だけなのと大差はない。僕は口ずさんだ。

「瞳を~閉じれば~あなたが~~ 瞼の~裏にいることで~~」

「............」 

「............」

__ツッこんでよお!じゃないと俺がいきなりヒトカラ始めたみたいじゃん!もしここが喫茶店だったとしたら綺麗な閑古鳥のさえずりが不安を誘いそうなこの空間に,思わずくすっとなる冗談を産み落としたというのに!『それは3月9日だね』って言葉で拾い上げないとせっかくこの世に生を受けた可愛い冗談は産声を上げることができないんだよ!?

 どこかで聞いたことがある気がするが,自分のギャクを自分で説明することほど惨めで恥ずかしいことはない。しかし,彼の表情からはちょっとネジの外れている可哀そうなやつというレッテルを僕に貼りつつあることを感じとった。ここは自分で産んだ子を自分で抱きかかえてやるしかない。

「『それは3月9日だね』待ちだったんだけど......」

「............ 」

 それでも彼の耳には産声は聞こえていないみたいようだった。