Log(きょうごく)

きょうごくのLog

都内在住の大学生の日記です。

【日記】「こころ」(夏目漱石)先生と遺書 風に日記を書いてみた

「その日は講義が朝からありました。早くから起きてもいました。然しその時私はどうも学校にいくような心持ではなかったのです。尤も特にこれといった理由はありません。ただ一日私の室に居て過ごしたい心持だったのです。然し一日の凡ての講義を休むわけにはいきません。そこで朝の講義に遅れて行って宿題だけ手に入れると、授業を途中で抜け出して食堂で時間を潰したのです。

 昼休暇の時刻になると大変食堂は混むので、私は仕方なしに早めに昼食を済まして十二時前に食堂を出ました。図書館で次の授業までの時間を潰そうかと思ったのですが、私はその時学生証を有っていませんでした。図書館に這入るには学生証が必要なのですが、私はずっと前から学生証をなくしていたのです。何れ必要になるので、早いうちに再発行するのが可いだろうと思って——正確に云うと再々々発行なのですが、学生課に行きました。おかしなことですが、私にとって学生証を再発行してもらうのは慣れたもので、私は受付に真直に向かいました。先に何やら手続きをしている学生が居たので、私はその後ろに並んで待っていました。その時不図後ろのホワイトボードに学生証の落とし物を知らせる文言が書いてあるのを見ました。今まで学生証をなくした時、そこに私の学籍番号が書いてあることは無かったので当てにしていませんでした。学生証をなくしたのは大学の外のことだとばかり思っていたので猶のことです。然しきっと其所に私の学籍番号が書いてありました。私は驚ろきました。ずっと前に大学の外でなくしたとばかり思っていたためでもありますし、親切にも届けてくれる人がいたことが意外だったためでもあります。

 そうして再発行2と書かれた学生証を取り戻した私は、次の講義まで図書館で宿題を為て一人静に過ごしました。恋に悩む青年が突然幅の広い机の向う側から小さな声で私の名を呼んでくることもありませんでした。二時半頃に私は宿題を已めて、図書館を出て次の講義の室に行きました。その講義は英語でした。教師は講義の始めにグループ対抗のクイズをすると云いました。インターネットを利用したクイズです。スマホで自分の名前を入れて専用のウェブサイトにログインすると同じグループの学生の名前が表示されます。自分はアルファベットで名前を入力したのですが、グループの一人は日本語で入力していました。然しもう一人の学生の名前はただMとだけ表示されていました。私は此処に真宗の坊さんの子で果断に富んだ性格を有った人物がいたわけでも、そのような人物が与えられそうな呼称を模倣してMとその人物を呼ぶわけでもないことを明言しておきます。事実、Mとだけ名前を入力した横着者がいただけです。私は教室からそのMを見つけなければならないので、『Mの人ー。Mの人はどなたですかー』と当然ながらこう云って探します。然し私の周井の人間の目には私がマゾヒストを探しているようにしか見えなかったのでしょう。友人が失笑を隠し切れずに私に何をおかしなことを云っているのだと云いました。私は其所で初めて私の愚行を認識しました。それと同時に『Mは私です』と云うものが現われました。私は何故そんな横着な名前を入れたのかとも、もう少し早く名乗り出て欲しかったとも云いたくなりました。若しその人物が男だったならばそう云ったかもしれません。然しMは女でした。私は平生から女には弱いもので、面白い名前だねと軽い冗談を云うことしかできませんでした。