Log(きょうごく)

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都内在住の大学生の日記風ブログです。いや日記です。月・水・土曜日に更新しています。

【日記】新学期の鬱

 桜も散り始め青色の葉をつける頃、どうにも学校に行かなければいけない季節になったものだから、長い春休みに手堅く培われた昼夜逆転の習慣を始めとする様々な悪習を刷新しようと幾度も決意するのだが、早起きひとつ為しえない自分の薄志弱行にひとり忸怩たる思いを抱える。

 重い体と頭で大学に通う一週間をこれから幾度も、克明に言えば十五回になるのだけれども、繰り返すと思うと意気阻喪、やってられない。しかし、極まって志気を下げるのは実験だ。二、三、四限とその日は電気回路を捏ね繰り回して煩雑なデータをとるのに時間を費やす。二限と三限の間は昼休みで、これは逆を言えば時間が足りなければ昼休みの時間を削ってでも実験をしろと言われているような気がしてやるせない。

 実験は二人一組で行われる。気心知れた友人や、密かに思いを寄せる異性などとペアを組めれば悦ばしいのだが、もちろん現にはそうはいかず、これぞ理系の大学であると名実ともに語らんばかりの男女比率九対一という驚異の我がキャンパスに溢れる有象無象の一人だ、と顔に書いてあるような男で、どこかで見たことはあるがやはり名前もさっぱり知らない男がペアだった。

 面識ない上につまらなさそうな男と今後毎週この日は何時間も顔を突き合わせると思うと軽く朦朧とした。隣を窺うと男女ペアであったので羨ましく嫉妬を感じ、多くの人間が自分と同じような境遇であるにも関わらず、小さな自己憐憫を感じた。その女性が特別美貌に富むというわけではないが、おそらくこの大学で過ごした二、三年の間に男に少なくとも一度や二度は言い寄られているだろうと想像できるくらいには、愛嬌があるのではないか。もちろん大学に入って二年となるが、一度も女性に言い寄られたことがない自分にとやかく言う権利は本来ない。

 さて、そもそも実験というものはつまらないうえに頭を使い、憂鬱の一言に尽きるのだが、先ほども言ったとおり、さほど知らない男と肩を並べて協力して行うものだから、始めのこの時期は拍車をかけてつらい。実験の内容のことばかりを話し続けて時間を浪費することは聊か難しく、時に空白の時間が気まずく乗りかかってくる。彼は恬淡の心を持っているのか、新しい友人を作ろうという姿勢や欲がさほど見られず、彼のほうから何か話題を振ってくるわけでもなかったので、雑談と呼ぶ以外になんと呼べばいいか分からないそれをするか少し逡巡した。それでも、無味乾燥ではあったが、幾つか話題を振ったりもしたのだが、手ごたえ薄く、何を自分は頑張っているのかと青息吐息であった。

 実験のほうは意外と障りなく進んで、昼休みになる頃には十分に昼食をとる時間があった。しかし、彼と一緒に昼食を食べなければならないのか。一人学食で昼食をとるのを避けるために彼と一緒に、という気にはなれない。しかし別々に食べるのも不自然であろうので、しかたなくそんな心中はおくびにもださず当然のように一緒に学食に向かう。ああ、めんどうだ。彼が嫌いなわけではないが、一人静かに食べさせてもらいたいのが本心だ。実験をしている間のほとんどは実験のことについて話しているのだが、今はそうもいかない。何か君のほうから話してくれないか。テレパシーを送ってみたりしたのだが効果薄。そういうわけで講義や単位やサークルやらその他生活のことなどをまた適当に話す。バイト先ではどちらかと言えば寡黙で動きが緩慢な自分は、実際に末っ子長男であるので総領の甚六などと言われるが、なんだかんだ言ったもののこういうとき間を持たせるのがうまいほうだとは思う。立て板に水のように、とまではいかないが快活に話す自分を見ればバイト先の人たちは目を丸くするだろう。なぜ初対面の人間の前だと沈黙を恐れてしまうのか自分でも分からない。