Log(きょうごく)

きょうごくのLog

都内在住の大学生の日記風ブログです。いや日記です。

【日記】寿町ドヤ街(前半)

 朝7時、オープンと同時に石川町駅近くのカフェに入った。モーニングセットを注文して席に着く。スマホを見たが、やはり連絡はなかった。集合時間は8時に石川町駅南口だったが、それよりも1時間以上も早く行こうと言い出したのは彼のほうだったが。彼も自分も寝坊する可能性は十分に考えられたので、あまり気にせず文庫本を開いた。

 

 神奈川県の寿町に行かないかと彼が自分を誘ったのは、以前地元の友達で集まってご飯を食べたときだった。彼は難民問題に取り組んでいるらしい。難民問題との関係はともかく、貧困の問題に関心があるようだった。

 

 寿町は日本の3大ドヤ街と呼ばれる町のひとつである。「ドヤ」とは、簡易宿泊所のことで、100軒以上のそれらが300メートル四方の場所に軒を連ねる。寿町は、戦後すぐに進駐軍に接収され、その後接収解除されたとき無人の草原地帯として返還された土地だった。草原地帯だったのは空襲のためだ。その土地を当時の在日朝鮮人が買収、需要の高かった日雇い労働者のためにドヤ(簡易宿泊所)が短い年月のうちに建設された。

 今から10年か20年も前であれば、日雇い労働はまだ活発であり、町には人間らしい活気があったらしい。しかし、今では日雇い労働は衰退し、高齢者や身体的ないしは精神的に障害を抱える人たちが多くを占めるようになった。生活保護者は全体の8割にも及ぶという。

 

 8時前になっても彼から連絡は来なかった。カフェを出て約束の石川町駅南口に向かった。自分を寿町に誘ったのは寝坊の彼だが、寿町の案内をしてくれる診療所の先生とパイプを持ち、計画を取り持ってくれていたのは彼の友達の女子大生だ。もちろん、自分は彼女とは何の関係もない、一度電話をしてはいたが初対面である。

 一目見てすぐ分かった。南アジア国籍の彼女は控えめに言って分かりやすかった。初めましての挨拶。電話をしたときに分かってはいたが、彼女は日本人より流暢に日本語を話した。

 初めましての挨拶もそこそこに、朝ご飯を食べに近くの喫茶店に入る。さきほどまで別の喫茶店で朝ごはんを食べてました、とは言えない。まだ胃袋のキャパは十分にあったのでサンドイッチを注文。

 朝ごはんを食べながらお互いのことを聞きあったり、共通の話題である寝坊の彼について喋ったりした。

 ふとなんとも不思議な光景だなと自分を客観視した。周りからみれば、モーニングをとっている国際カップルに見えるかもしれないが、その実は30分ほど前に会ったばかりの日本人男子と南アジア出身女子である。

 素直に言えば、自分は難民問題も貧困問題もドヤ街も関心などまったくない。どれも同情しかできない。熱烈な彼の誘いに乗ったはいいが、前日まで寿町がどんな町かも知らず、今から自分が何をするのかすらよく分かっていなかった。

 そして今、目の前にはドヤ街について語る南アジア国籍の彼女。前日の昼から活動し続けている眠い頭で俺は今何をしているんだろうと思った。

 ようやく彼と連絡がとれた。

 ーー今起きた。今からここに来ようと思うと2時間かかる。すでに8時半。来た頃にはとっくにお昼。しかも、夕方から予定があるので長居はできない。

 そういう訳で彼は来ないことになった。目の前の彼女は怒っている様子だったが、自分も寝坊などよくするし彼を責める気はあまりない。だが、彼が来ないとなると、ますます自分がここにいる理由と意義が分からなくなった。

 喫茶店を出て、寿町の診療所を訪問した。診療所では老人が行列を作っていた。行列のできる法律相談所ならぬドヤ街診療所だなとくだらないことを考えた。ちなみに、診療所を訪れる多くの人は定期的に来ているらしく、その目的は診療そのものだけでなく、薬を飲んでもらうことらしい。薬をまとめて渡して正しく服用できる人は、精神的に健康な人でも少なくないが、そうでない人たちならなおさら無理だという話だ。

 診療所で自己紹介をした後、そこの先生に町案内をしてもらい、町の歴史や成り立ち、特徴などを教えてもらった。町で見かける人のほとんどは老人だった。彼らが暮らすドヤも見せてもらった。3畳のスペース。寝転がれるだけの、それがプライベート空間のすべて。一泊1700円。破格の安さである。一般の人でも泊まれるところばかりではないらしいが、自分たちも一泊することはできるらしい。どうせならここに一泊してみたら面白かったのにと思った。

 町で所狭しと軒を連ねるドヤと老人の他に見かけたものは、いくつもの居酒屋やスナック、炊き出しを行う公園、コインシャワーやコインランドリー、福祉・介護サービス施設、100円ドリンクの自動販売機に新聞を売る自動販売機などだった。寿町には近くに競馬や競艇、競輪の券の販売所があるらしく、ギャンブルにはまっている人が多いらしい。いわゆるノミ屋もあるようだ。だが、それ以上にいるのが酒や薬に溺れた人だ。ただ、寿町で依存症になったのではなく、そうなってしまった故に寿町に流れてきたという人が多いのだろう。寿町のあたりでは生活保護が受けやすく、格安で泊まれるドヤがあり、敷居の低い診療所がある。アルコールで生活が狂った人、失業した人、刑務所から出てきた人。自分と同じようになんらかの形で社会からはじきだされ、孤独を抱える人たちがいるのだから。ちなみに、寿町は駅から徒歩5分で区役所や中華街、横浜スタジアムなんかも近い。なんにせよ生活に便利な土地ではあるのだろう。

 

 想定していたより多く文字を書いてしまった。午後の話は次の記事で。