Log(きょうごく)

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都内在住の大学生の日記風ブログです。いや日記です。

「日記」『無料愚痴聞き』を路上でやっている人がいたから愚痴を聞いてもらった

 いつもの居酒屋のバイトの帰り道,帰ったらすぐ布団に入ろうなどと考えながらぼんやりと背中を丸めて家路を歩いていた。ふと顔を上げると,人通りの多い駅前の広場に「愚痴聞き 無料」と書かれた看板を置いて路上に座っている人がいた。その人と目があった,気がした。ふらっと近づいてこんばんはと声をかけた。

 「無料愚痴聞き」なるものをやっている人は20後半ぐらいの見た目をした普通の男性だった。全体的な印象も個々の顔のパーツもありふれている感じのする人だ。「愚痴聞き 無料」の代わりに「似顔絵書いてみませんか 無料」と看板に書けば,彼の前にはつかみどころのない同じような顔をした男の絵が積み上げられるだろう。

 どのようなことをやっているのか尋ねると「ケイチョウ」をやっているのだと彼は答えた。「ケイチョウ」とはなんだと聞き返すと,漢字で「傾聴」と書くのだと教えられた。彼はアドバイスは一切しないから愚痴を喋ってくれればいいのだと言った。僕は愚痴など特にないと言った。実際,いつもなら腹の底から浮かび上がる罵詈雑言を飲み込んで黙々とこなすバイトも,その日はリラックスした精神状態で勤めあげていたので愚痴を吐く気分でもなかった。しかし不思議なもので,雑談をしているうちにいつのまにか自分の人付き合いの下手さや要領の悪さについて愚痴を言っていた。ああ,今喋っているこれは愚痴ですねと苦笑した。

 愚痴を言うのをやめて,過去にはどんなことを喋っていた人がいたのか話してもらった。今日僕が来る前にやってきた高校生は恋愛について話していったそうだ。恋愛関連で言えば,好きな人に告白をしたいという人の練習に付き合ったこともあるらしい。道端に怪しげな看板を出して座っている初対面の男に告白の練習に突き合わせる勇気があるなら十分だろうと思った。意外にも多いトピックは不倫だそうだ。それはさぞかし愚痴の方も調子よく口から飛び出てくるだろう。

 ふと気づくと,路上に座りこんで怪しげな会話をする僕達に動物園の賢いチンパンジーを見るような目を2人の女性が向けていた。それに気づいた傾聴男が,会話に混ざりませんかと僕達の座っていたうんこ座りの手助けしかできないような小ささの椅子を勧めた。僕たちは地べたで大丈夫なのでなどと傾聴男が言う。それは一応客である僕の言うセリフなような気がしたが悪い気もしなかった。

 2人の女性はプロフィール欄に生息地という項目があれば24時間営業の居酒屋と書いてあるだろうなと思わせるような見た目をしていた。彼女たちは結婚をしたいが良い人が見つからないし焦っていると言った。年齢は23らしい。僕の2つか3つ上だ。僕も良い人が見つからなくてと困ってるんですよととぼけて見せると年齢を聞かれた。20才だと答えると,めっちゃ年下じゃんと笑われた。僕の方は3つ違いは頭から飛びつけば軽く届く打球程度には守備範囲内だがなと心の中で反論した。

 女性達はきっと結婚と結婚をしたいのだろうなと話を聞いているうちに思った。もちろん口に出しはしない。婚期を逃すまいと捕まえた男は亭主関白DV旦那になりましたというストーリーが見えた。まだ23歳なのだから結婚に焦らなくてもいいのではないかと僭越ながら述べさせて頂くと,若いから分からないんだよと言われた。確かに23歳の女性の気持ちは分からないがノリは女子大生みたいな人達だけどなと思った。そんな彼女達に傾聴男は何事も楽しむことが大事だとか色んなコミュニティに所属してみると良いだとか言っていた。嫌味を言いたいわけではないが,傾聴男もアドバイスをせずに会話をするのは難しいのだろうなと思った。

 彼女達はしばらく30分ほど話していった後,夜の街に消えていった。いや,恐らく普通に帰路についただろう。僕もそろそろ帰りますと立ち上がった。最後に普段看板を出している日を聞いて,また暇があればと小さく手を上げた。

「日記」58万のUSBを買えば人生は変わる,らしい

 大学の先輩にクラブに行かないかと誘われた。僕は20歳の誕生日を半年以上前に迎えていたがクラブ未経験だった。興味はかなりあった。ソープの次くらい興味があった。だが1人でないし同じく未経験の友達を誘って行く勇気はなかった。渡りに船,こうゆうのを待っていた。2つ返事で行きますと連絡した。

 クラブの前日,先輩から詳細な連絡があった。荷物は最小限でくること,身分証を必ず持ってくること,必要な資金などの注意を受けた後クラブに行く前にそのイベントを運営しているらしい団体の人から話を聞かないかと言われた。そんな人に僕が会う趣旨が分からなかったが,断る理由もないので深く考えず了承した。

 次の日の正午ごろ,クラブ会場近くの喫茶店に先輩と2人僕はいた。そのお話とやらを聞かせてくれる人が来る1時間前には他のチェーン店に比べて若干高いコーヒーを注文していた。このコーヒーには雀荘でいうところの場代が含まれているのだろう,おかげで後ろめたい気持ちを感じることなく1時間でも2時間でも話しをすることが暗黙の了解で許される。

 その時点でなぜ僕はここにいるのか分かっていなかった。なにやらイベントの企画・運営で稼いでる団体とやらの活動の紹介でもされるのかと漠然と考えていた。しかし,唐突に先輩の口から出てきたのは投資の話だった。先物取引225というのはね...,受験を控えている生徒とマンツーマンで指導をする塾講師のように先輩が真剣に話す。慣れた手つきでルーズリーフに文字や図がカラフルに色ペンで書き込まれていく。対照的に僕の頭の中に暗い色の雲が生まれる。その雲はゆっくりと広がりを始めやがて頭の中全体を満たした。

 1時間後,毒々しい真っ白なスーツに身を包んだオールバックの男が現れた。雲は今にも大粒の雨を吐き出さんばかりに真っ黒になっていた。背筋を伸ばして挨拶をする。話は聞いていたと思うんだけどね,と1時間聞かされた話をなぞりながら投資の話が再開された。妙に話上手で不吉さが増す。パソコンで投資運用の具体的なデータを見せられた。多く稼いだ月,赤だった月。平凡な大学生には無縁な額の数字が並ぶ。頭の中で既に本降りとなっていた雨は不穏な風に晒され冷たい汗となって外に現れた。じきに話は核心に触れた。

「そう言った訳で,私たちの会社は投資で利益を出しやすくする手段としてこちらのシステムをUSBとして販売しておりまして」

 不吉な予感は当たる。雷が鳴った。

「値段が58万円となってます」 

__いやでも僕お金持ってないですし__学生ローンを借りてもらえれば大丈夫です,大きな借金ではないしちゃんとやれば返すのに苦労しないですよ。

__興味ないので___何事もやってみなければ分からないと思いませんか?それにやりたいことをやるには時間とお金が必要だと思うんですが,投資はそのための手段です。

__自分にはまだ早いかなと__確かに4,50代で投資を始める人は多いですが,それなら今始めたほうが確実に良いです,80歳まで生きるとして,残りの人生が60年,自由に使える時間が一日何時間として...これだけの時間しかないんです,始めるのに早いなんてことはないですよ。

 なぜ自分が投資をやらないのか説明できなかった。理屈では敵わなかった。寧ろ投資をすることこそが人生における正しい選択なのではないのかとすら思わさられるようだった。それでも,首を縦に振っていい訳がないという意識は持っていた。洗脳を受けているような気分だった。きっと先輩はこの洗脳に骨の髄まで侵されたに違いない。このオールバックが男色こそ至高だと言えば恍惚と聞き入りその男性器を口に含むんじゃないのかと思った。その人生の残された自由時間の計算に何の意味があるのか。やりたいことはやろう,しきりに言っているそれが正義なのか。明日死んでも後悔しないような人生を?何を言っているんだ?

 その場ではっきりと断ることはできなかった。その場はとりあえずお開きとなった。場所を変えて顔見知りの先輩がもう1人合流した。驚いたことに僕の友達がさらに2人一緒だった。その2人の友達の片方はまだ何も知らされてなかった。純粋にクラブを楽しみにしていた。1人は両足突っ込んでいた。さらに蓋を開けてみると自分の知っている人間が何人もやっているらしいことが先輩の口から判明した。嫌なコミュニティが近くにあったものだ。

 クラブは楽しかった。例のことは束の間忘れていた。かわいい女の子のLINEでも手に入れていれば言うことなしだった。クラブからの帰りに先輩はウチに来ないかと言った。突き放すべき現実がやらしい顔をだした。まだあの話を聞いてから1秒たりとも1人になっていなかったので帰りたかったが,断り切れなかった。散々話をした。熱のこもった話だ。僕は自分が投資をしない理由を探しているのか先輩の洗脳を解こうとしているのか分からなかった。話してるうちに何が善で悪か,何が会っていて間違っているのか分からなくなった。自分の感覚を言葉にできなかった。言葉にできないうちに感覚のほうが変わりかねない気がした。今決めよう,長い間の討論とも言える会話の末先輩は言った。僕は申し訳なさそうな体裁を繕って断った。先輩はそれでも納得してなかったようだが話は終結した。先輩の家を出た。午前2時の街は冷たく静かだったがまだ熱をもった僕の中の何かを冷ますほどではなかった。

「日記」バイト先でハブられていた悲しみを吐き出させてくれ

 バイトの愚痴をこぼすブログになりつつあるなと感じているけど許してほしい。愚痴をこぼすなら家族かネットというのはお約束。

 過去の記事を読んでもらえばどんな思いで僕が居酒屋でバイトをしているか分かってもらえると思うので良かったらそちらもぜひ。 



  さて,最近出勤したときの話。「支度中」の札を「商い中」に裏返してから1時間ほどたってもお客さんはあまり入ってきていなかった。店長やなぜか無駄に意識の高いバイトの人間と違って,ごく一般的なバイトの自分は2,3組だけ客が入っているこれくらいがちょうどいい。特に仕事もなく,100回以上は見たであろうドリンクを作るマニュアル表をボケっと眺めながら店長と1,2か月前に入ってきた後輩君が喋っているのを聞くともなしに聞く。店長はついさっき自分に話したことを全くそのまんま後輩君にも喋っていた。

 居酒屋4件ハシゴしたのもクラブに行ったのも面白い外国人のお姉さんにキャッチにあったのも,そのお姉さんが「ワタシ,すごいヨ。すっごいヨ」と連呼していたのも聞いた。わざわざもう一度同じ話を聞きに話に混じりに行く気はならない。しかし,後輩君の聞き上手には感心させられる。リアクションがひとつひとつ大きくバリエーションに富んでいる。きっと店長も「へー,そうなんですか~」としか返さないオウムの自分と喋るより気持ちいいだろう。

 ポツポツとお客さんの呼び出しに対応したりドリンクを作ったりして,また一息ついたとき,さっきまで店長とお酒の話をしていた後輩君は僕にビールは飲めるかと聞いてきた。大学一年生らしい初々しいことを言うなあと若干二十歳の自分はほっこりしてしまう。おっさんか。そんな気持ちでおしゃべりをしている途中,後輩君は思い出したように言った。うら若く無垢な後輩君はそのイノセントな目を向けて言った。
「そういえば急遽決まったっていう明日のバーベキューは先輩は行かないんですか?」

 僅かに間をおいて,僕はアゴのニキビ跡が少し目立つ顔に微笑を佇ませて言った。

「うん,行かないよ」

 このときの僕の頭の中を想像してもらうのは難しいだろう。いかに僕がちっぽけなプライドを張ってしまったか,いかに混乱していたか想像できるだろうか。

 後輩君は,あたかも周知の話題であるかのように,全く僕のあずかり知らぬ話題を登場させたのだ。

 __バーベキュー?え?聞いてないよ?急遽決まったっていつ決まったの?俺ここ一週間シフト入ってなかったけどその間?急遽っていうくらいだからそれくらいか?いやもっと前か?いやいや,たぶん昨日とか一昨日とかそんな話のはずだよね。それくらい急すぎる話だから俺が知らないのも無理はないんだ。きっとそうだ。そうに違いない。あっ,そういえばさっき後輩君と店長がバーベキューがどうこうとか話してた気がする。誰が行くんだ?もしかして俺意外みんなとか...?いや,そんなはずはない。店長は明日休みだけど,出勤する人はもちろんいるし。きっと店長と仲のいいAとかBとか数人だけだろう。うん,そう考えれば俺が呼ばれないのはある意味当然だ。そんな仲良くないし。気にすることじゃない...はず。

 自分にそう言い聞かせて,店長に頼まれた馬刺しのポーション作業なるものを黙々とこなす。

 そうしていると,今日はオフのバイトの先輩が店にやってきた。店長に「今日ここで飲んでいいですかー?」などと聞いている。僕はオフの日にバイト先になんて絶対に来たくないねと心の中で毒づく。「いいよー」と店長は答えて話を続ける。

「そういえば,明日何時から行ける?学校あるよね?」

 先輩が答える。

「えーっと,明日は3限までなんで...」

「あ,だよね。学校あるよね。いや,さっきCちゃんがバーベキュー行きたいけど学校が...って言ってたからさ」

 店長は言った。僕は耳を疑った。

 Cちゃんはつい最近入ってきたばかりの新人だ。少し可愛いコは友好関係を築かなくてもバーベキューに誘ってもらえるということなのだろうか。そもそも,俺がすぐ横にいるのに普通に会話するのはかなりの違和感を感じる。もしかしてここで「俺誘ってもらってないですよー(笑)」と言えばいいのだろうか?勿論そんなことは言うわけないが。もし裏で僕をハブにする会議が行われていたとすると,さすがにこの状況はありえない。ということは,僕のいないところでバーベキューが企画され,誰も僕を誘うか誘わないかという話題すら取り上げなかったということだろう。つまり空気。

 僕は馬刺しのポーションを黙々と続ける。50g測って袋に小分けする。黙々と小分けする。バイトを辞めるまであと2か月。黙々と仕事を続けるには長すぎる。




















































































































































































































































































































































































































































































































































































 

【日記】えっ、店長...口軽くないですか...?

 前回の記事を読んでもらうとよく分かるのだが、自分は居酒屋でバイトを1年以上している。しかし全く向いていないと痛感するので辞めようとしている。

↓前回の記事

 つい最近出勤した時の話。

 いつもは5時開店の自分の店だが、ゴールデンウィークの間だけ何故か4時開店になっている。天皇即位の日の祝日くらい休みにすればいいのにと思う自分だが、チェーンの居酒屋というのはやはりブラックで寧ろ開店時間が長くなる。ハードな勤務状況を嘆いている店長や社員の人を見てると若干気の毒になるくらいだ。労基的にはセーフなのかと疑問に感じる。なんてくっちゃべてみてはいるが、せいぜい頑張り給えと心の中では冷たく吐いている。結局かわいいのは自分だ。僕はきついので辞める。

 とは言っているが、辞めようと決心してすぐに行動に移さなかったのは、他店にヘルプを頼みまくってもまだ人が足りないくらいの状況をやはり気の毒に思ったからだ。何が言いたいんだと思うかもしれないが、そんなことを事実考えていた。いつ辞めようかいつ辞めようかとウジウジしていたのが、よし辞めよう!という確固たる思いに変わったのは春休みのころ。何故思いが固まったのか特に理由はない。しいて言えば生活環境が変わって気も変わったからだろう。だがその時期は前述した通り全く人が足りていなくて新人も全くいなかった。さすがにすぐ辞めるのは気の毒だと思ったので、店長に辞めたいという気持ちを正直に話した上で新学期になってもし新人が増えて良い塩梅になったら辞めます、と意思表明しておいた。これが2か月前の3月頃の話だ。

 話はつい最近4時出勤した時の話に戻る。その時間に出勤したバイトは自分一人で、店には社員と店長が一人ずついた。自分に言わせれば至極自然だが、お客さんも一組もいなかった。最近新人は多く入ってきた。ちょうど良い機会だった。

 僕はほとんど衝動的に切り出していた。「夏休み前に辞めようと思うんですけど」とろくな前置きもせずに言った。本当は雑談でもしつつスムーズに話題を切り替え「あ、そういえば最近考えていたんですけど」みたいな要領で話をしたかったが自分はそんな話上手ではない。しかしそれでも空気を固くせずに話を聞いてくれるのが店長のいいところだ。店長からすればあまり嬉しくもないであろう話をいきなり切り出されたにも関わらず、ランチのメニューを相談される友達くらいの気軽さで話をさせてくれた。以前に意思表明していたのもあってか自分でもあっけなく思うほど簡単に話はついた。店長が変に引き留めてくることなどはなかったのは安心したが、他のバイトに辞めることを知られたらやりにくいので「他の人には黙っといてもらえますか、送別会という名目の飲み会とかも大丈夫です。ある日さらっと消えようと思うので」と付け足しておいた。

 その日は過去を振り返っても多くは体験していない8時間勤務という辛いシフトだったが、最初の2時間くらいはお客さんがほとんど来なかったおかげか辞めるとはっきりさせたおかげか心無し疲労は感じなかった。

 閉店が近づいて仕事に余裕がでてきた11時頃、バイトの女の先輩が自分に向かっていきなり言い放った。いや、言い放ったという表現を使いたくなるのは自分のほうで、彼女からすればシンプルに話しかけたと表現するのが妥当だろう。

「バイト辞めるんだって?」

 ——はい?え?...いやいや店長には黙っといてほしいと一応伝えておいたはず、もう1人の社員のほうか?...いや違うか。あの人一部のバイトに若干嫌われてるからな。この先輩がそうだし。おそらく店長も仲良さげに喋ってはいるけど腹の中ではそこまで親しく思ってもいないだろうし。直接そういう話を誰かから聞いたことがあるわけじゃないけど。僕でも多少空気は読める。寧ろ空気を読みすぎて空気になることがあるくらいには空気を読んでいる。そんな歌詞がバックナンバーの歌にあった気がする。とにかくあの社員がこの女の先輩に所謂裏の話はしないだろうなあ。そこまで彼らの距離は近くないもの。ということは店長が喋ったんだろうなあ..。 確かにお口にチャックができるタイプではないけど、それにしても喋るにしても早すぎるよ。それに「まだおおっぴらには言いにくいんだけどね...」くらいの断りをいれていてもいいんじゃないか...?

「早すぎじゃないですか?俺ある日いきなり消えて、その後になってから『そういえばあいつどうしたんだ』『ああ、あいつは辞めたってよ』みたいになるのが理想だったんですけど」

 僕は苦笑しながら軽い口調でそう言った。「店長が言ってたんですか?」とわざわざ確認はしなかった。

「そんなのムリっしょ。ここでその手の噂は一瞬」

 先輩がそう笑って言うのを聞いて、かなり憂鬱になった。次出勤したとき、別の先輩が「辞めるんだって?なんでさ?」なんて聞いてくるのだろう。既に気が重い。

 その後4,50分ほど働いて、パソコンで何やら作業をしている店長のところに行った。

「さっきびっくりしたことがあったんですけど」

 僕は皮肉を交えて言った。

「『辞めるんだって?』って先輩に言われたんですよ」

「うん」

 店長は僕が皮肉を言っていることに気付いていないのか、悪気を全く感じていないのか、僕の希望を忘れたのか見当のつかない素朴な返答をする。

「あの、俺黙っといてもらいたかったんですけど...」

 僕は遠慮気味に聞き直す。しかし店長はいつもどおりの調子で言った。

「寂しくなるじゃん?送別会とかしたいよねって話をしたんだよ」

 ——それを勘弁してほしいだよなああ。そこまで俺他の人と親しくもないんだから。それに就職するわけでも大学が研究の段階に入って忙しくなるわけでもなくて、だるいんで辞めますってやつなんだから俺は。寿退社とは違うんだよ?。そんな名ばかりは送別会とつけた飲み会で雰囲気だけは明るく送りだしてくれても。いつでも飲みに来いよとか、拍車をかけた社交辞令をもらっても。もともとプライベートで何の縁もなかった人たちとプライベートの関わりを持つことなく1年ばかり。何を引きずれっていうんだ。スパッと辞めさせてくれ——。

「いやいや、ありがとうございます。お気持ちだけで大変嬉しゅうございます」

 努めて冗談らしく言う。心の中では懇願の嵐が吹き荒れていた。それとも僕が何かと難しく、深く考えすぎなんだろうか。どこからどこまでが世間と自分とがずれているんだろう。

 

 

【雑記】やっぱり僕に居酒屋バイトは向いていない

 僕の9日間のゴールデンウィークの予定の内6日は居酒屋のバイトで埋まっている。居酒屋バイトを始めたのは大学二年生になる春休みだったので、既に1年以上続けていることになる。

 それまでは定食屋でバイトをしていた。大〇屋ってところでバイトをしていた。そこでバイトを始めたのは先輩に誘われたからだった。その先輩のことは好きだったが、その〇戸屋にはバイトリーダー的な存在の推定20代後半くらいの女性がいて、その人が苦手すぎて半年経たずに辞めてしまった。

 辞めたこと自体に後悔はないが、自分を誘ってくれた先輩に申し訳ないとは思ったし、それ以降その先輩と顔を合わせるのもなんとなく気まずく感じてしまうようになった。

 そうゆう経験から、次は誰にも頼らず全く自分のコミュニティとは関係のないところでバイトをしようと決意した。なんのバイトをしようかと色々迷った。塾講師に応募したこともある。面接・テストをパスし採用の電話はもらった。その後初回説明みたいなのも受け、「初出勤の日程なんかはまた連絡するね」と言われた。だが、電話がそれ以降かかってくることはなかった。あれはなんだったんだろうと今でも思う。

 単発タイプのイベントバイトも応募した。これも面接を受けて採用してもらった。だが、こちらに関しては面倒になってしまって積極的に一度も出勤しなかった。何を自分はしたかったんだろうと今でも思う。

 そして、大学一年の冬が終わろうとしていたころ、どうせなら出会いがあるバイトがしたいという思いから、友達や先輩の勧めに従って居酒屋でバイトを始めてみた。バイトを始めた時はやる気に満ち溢れていた。それはもうしっかり仕事を覚えて、バイト先の人と仲良くなって、あわよくばガールフレンドをと思っていた。

 しかし、まず自分は仕事の覚えが悪かった。誰もが1度聞いただけでモノを覚えられるわけではない、なんてよく言われるが、自分は3度聞いても覚えられなかった。前それ教えたじゃん、と何度言われたことか。ビールサーバーの閉め方は7,8回くらい聞いたかもしれない。なるべく違う人に聞くようにするのが大変だった。

 ミスも多かった。特にオーダーミスは何度やったか分からない。ハンディーとかいらないから全部手書きにしてくれよとすら思った。もちろんその方が圧倒的に効率は悪いのは分かるが、ハンディーの扱いが苦手すぎた。どこになんのキーがあるのか探すのが大変だし、押し間違えるのもしょっちゅうだった。キッチンに「すいません」と頭を下げ、お客さんに「申し訳ございません」と頭を下げるのも慣れっこになるくらいにはやらかしまくった。

 ドリンクを作るのも苦手だ。そもそも、ドリンクを作るのを覚えるのもかなり時間がかかった。今ではおおよそのドリンクは何も見ずに作れるが、そのスピードはあまり速くない。大量のオーダーを急いで処理しようとすると大体なにかしらミスったりやらかしたりする。昨日は日本酒の瓶を倒して割った。

 キャッチも苦手だ。というか嫌いだ。ご存じだろうが「居酒屋のご利用はいかがですかー」なんていいながら道行く人を自分の店に引きずり込むあれのことだ。自分の店では暇なときにバイトがキャッチをやらされることがある。もちろん自分も何度かやらされた。しかし、自分がお客さんを引っ張ってきたのは片手で余裕で数えられる程度しかない。入って1か月くらいの新人のほうが自分の100倍はお客さんを引っ張ってくる。マジで感心する。ちなみに、そう言われたことがあるわけではないが、自分は全くお客さんを引っ張ってこないので今ではほとんどキャッチをやらされることはない。

 そして、なによりバイトの人たちと仲良くないのがきつい。雑談程度ならするが、それ以上のことは全くない。プライベートで会ったこともほぼない。バイトの時とそうでないときのキャラの差がすごいと自分でも思う。バイトの時の自分のまあなんと無口で暗いことか。あの場でギャグを飛ばしたりふざけてみたりする自分が想像できない。仕事ができなさ過ぎて明るく振る舞うのに抵抗があったからかもしれない。やらかしたときに「反省してます」と言ったことはあまりないが、反省してます的なポーズをとったほうがいいかもしれないと思っておとなしくしてたのが習慣になったのかもしれない。

 以前、ミスをして店長に起こられて先輩が落ち込んでいた。僕が「俺の方が散々怒られまくってますよ」と珍しく冗談交じりのフォローをしたら「本当だよね。メンタル強いよね」と言われたことがある。少し心に刺さるものがあった。

 前の店長の送別会のとき、その前の店長に「お前はすぐ辞めると思ったよ」と言われた。この時もグサリという音が胸から聞こえた気がした。

 しかし、なんだかんだで1年も続いてしまった。周りにどうせすぐ辞めるだろうと思われていると思うと、本当にすぐに辞めるか試してみようじゃないか的な精神が働いて続いてしまった。天邪鬼なこった。でも、1年続けても居心地の悪さはあまり変わらなかった。もう見栄を張るのは止めて、自分にあったバイトをしようか。

【日記】「こころ」(夏目漱石)先生と遺書 風に日記を書いてみた

「その日は講義が朝からありました。早くから起きてもいました。然しその時私はどうも学校にいくような心持ではなかったのです。尤も特にこれといった理由はありません。ただ一日私の室に居て過ごしたい心持だったのです。然し一日の凡ての講義を休むわけにはいきません。そこで朝の講義に遅れて行って宿題だけ手に入れると、授業を途中で抜け出して食堂で時間を潰したのです。

 昼休暇の時刻になると大変食堂は混むので、私は仕方なしに早めに昼食を済まして十二時前に食堂を出ました。図書館で次の授業までの時間を潰そうかと思ったのですが、私はその時学生証を有っていませんでした。図書館に這入るには学生証が必要なのですが、私はずっと前から学生証をなくしていたのです。何れ必要になるので、早いうちに再発行するのが可いだろうと思って——正確に云うと再々々発行なのですが、学生課に行きました。おかしなことですが、私にとって学生証を再発行してもらうのは慣れたもので、私は受付に真直に向かいました。先に何やら手続きをしている学生が居たので、私はその後ろに並んで待っていました。その時不図後ろのホワイトボードに学生証の落とし物を知らせる文言が書いてあるのを見ました。今まで学生証をなくした時、そこに私の学籍番号が書いてあることは無かったので当てにしていませんでした。学生証をなくしたのは大学の外のことだとばかり思っていたので猶のことです。然しきっと其所に私の学籍番号が書いてありました。私は驚ろきました。ずっと前に大学の外でなくしたとばかり思っていたためでもありますし、親切にも届けてくれる人がいたことが意外だったためでもあります。

 そうして再発行2と書かれた学生証を取り戻した私は、次の講義まで図書館で宿題を為て一人静に過ごしました。恋に悩む青年が突然幅の広い机の向う側から小さな声で私の名を呼んでくることもありませんでした。二時半頃に私は宿題を已めて、図書館を出て次の講義の室に行きました。その講義は英語でした。教師は講義の始めにグループ対抗のクイズをすると云いました。インターネットを利用したクイズです。スマホで自分の名前を入れて専用のウェブサイトにログインすると同じグループの学生の名前が表示されます。自分はアルファベットで名前を入力したのですが、グループの一人は日本語で入力していました。然しもう一人の学生の名前はただMとだけ表示されていました。私は此処に真宗の坊さんの子で果断に富んだ性格を有った人物がいたわけでも、そのような人物が与えられそうな呼称を模倣してMとその人物を呼ぶわけでもないことを明言しておきます。事実、Mとだけ名前を入力した横着者がいただけです。私は教室からそのMを見つけなければならないので、『Mの人ー。Mの人はどなたですかー』と当然ながらこう云って探します。然し私の周井の人間の目には私がマゾヒストを探しているようにしか見えなかったのでしょう。友人が失笑を隠し切れずに私に何をおかしなことを云っているのだと云いました。私は其所で初めて私の愚行を認識しました。それと同時に『Mは私です』と云うものが現われました。私は何故そんな横着な名前を入れたのかとも、もう少し早く名乗り出て欲しかったとも云いたくなりました。若しその人物が男だったならばそう云ったかもしれません。然しMは女でした。私は平生から女には弱いもので、面白い名前だねと軽い冗談を云うことしかできませんでした。

 

【日記】にわかが徹夜明けでNissyのライブへ

 新大阪終点ののぞみに乗って良かった。気が付いたときには車内の人たちはほとんど降りかけていた。慌てて重いリュックを背負ってホームに降りる。

 一時間半くらいは寝られただろうか。まだ、頭が重い。前日の金曜日は週明けに提出しなければならない課題やレポートに躍起になり徹夜だった。土曜日はNissyのライブ、日曜は食い倒れ観光と遊び倒す予定なので仕方がない。終わりの見えないレポートのためにノートパソコンが入ったリュックは疫病神のように背中に重くのしかかる。

 大阪は東京と違って右側に並ぶんだったなとぼんやり思ってエスカレータに向かったが、東京方面からやってきた老若男女は大阪のルールに倣おうとする人と東京の習慣で並ぶ人が混ざっているのか2列とも止まってエスカレータに乗っていた。そういえば最近はエスカレータの片側空けはよろしくないという風潮らしい。ここだけは最先端だ。

 改札を出る前にドトールで眠気覚ましにコーヒーを一杯注文して一息つく。ふと、自分は人生で初めて大阪に来たという事実を思い出した。今朝は、ちょっと新宿まで行ってくるみたいなノリで家を出た。誰にそう言ったわけではないけれど。東京から新大阪まで二時間半という長くない道のりはその事実をなんでもないように感じさせた気がする。一度コーヒーで落ち着いた体は、その腰を上げるのが億劫になって、ライブとか道頓堀とかそんないいもんだっけなどと思った。

 だから、あとからやってきた友達とはすごい温度差を感じた。遠足前の小学生顔負けの胸の弾ませようで、ライブがいかに楽しみかや観光計画を語る彼の表情を、鏡写しにするように豊かな表情にするように温度差をなくすよう努めた。

 元々Nissyのライブに行こうと言い出したのはその友達で、自分は全く関心がなかった。寧ろあのアイドル被れのくさくて甘い歌を歌う30過ぎの男がそんなにかっこいいかと毒づきたい。だが、多くのファンが女性であろうはずのそのアイドルみたいな男をなんで男のその友達がお熱なのかを理解できないことを踏まえても、他人の趣味を否定する気はない。自分の好きな彼が一緒に行こうと誘ったことが、全く興味のないライブに行く理由としては十分だった。

 それでも、せっかくライブに行くのだからどうせなら楽しみたい。かたっぱしからにっしーの曲を事前に聞いた。ツイッターで振付けも予習した。

 だが、ライブの一番最初の曲の聞き覚えはなかった。当然戸惑う。後で知ったが新曲だったらしい。だが、そのほかの曲はまあまあ耳に覚えがあって、なかなか楽しめた。やはり、曲を覚えているか覚えてないかはライブを楽しむ上で重要だ。振付も、会場中のお客さんが一心同体になって同じ振付をしているのに、自分一人出来ないときつい。バイトで新人だったころ、他のスタッフが忙しそうに動きまわっているのに自分ひとりすることが分からなくて棒立ち状態になったときにちょっと似てる。大まか覚えていったつもりだが、それでもついていけないときは多々あった。

 女性たちがにっしーの歌やダンス、セリフに黄色い歓声を上げるたびに、自分もそのキンキンとした高音で叫びたいと度々思ったが、男にはできない。時々「にっしー!」という低い声が会場のどこかから聞こえてきたが、やはり悪目立ちした。

 そうこうしてライブは終盤を迎え、にっしーが舞台袖に消えた。会場中のにっしーファンが一度席に座る。自分も同じように座る。だが、会場はアンコールで沸き立つ。毎度おなじみの展開なのだろう。自分も手をたたいてアンコールを叫ぼうとした。が、瞼が急激に重くなった。そのあたりだけ重力が強くなったみたいに感じる。一度席についたせいか、それまでハイテンションの影に身を潜めていた眠気が急激に押し寄せる。

 ふと、頭がカクンと落ちた。その瞬間に自分がほとんど目を閉じて意識をどこか遠くへ置いていこうとしたことを自覚した。慌てて頭を上げる。このアンコールの盛り上がりのさなか、うたた寝していると隣の友達に思われたらやばい。友達はときおり鼻のすする音すら聞こえさせたくらいには生のにっしーに感動している。完全に逆側の隣にいる地味な中学生くらいの女の子と反応がリンクしている。もし、そんな彼に今の自分の状態を悟られたら、間違いなく引かれる。ここは耐えなければ。必死に顔をあげ、手を叩いて、声を上げた。

 そしてにっしーがアンコールに応え、もう一度登場した。そして歌い始める。立ち上がり、ライブの空気に必死についていく。よし、やはり立ち上がったら眠気が遠慮してきた。そうも思いながらもアンコールで3曲もしなくていい、もう終わってくれと懇願していた。そうして、アンコールも終わり、にっしーと今度こそお別れをした。ああ、終わったかと安堵しかけたが、なんとなく様子がおかしい。席を立ちはじめたお客さんも見られるが、まだ席に座ったままの人が多い。まさか、と思えばやはり、三度にっしー登場。もう疲れた、限界だと思いながらも、隣の友達の静かに感動している横顔を一瞥して力強く立ち上がった。