Log(きょうごく)

きょうごくのLog

都内在住の大学生の日記です。

あて名はハンドルネーム

 バイトはまもなく辞めるし既にほとんど行っていない。大学院には受かっていた。今期の授業もやっと終わった。必修の単位がとれてない気がとてもするけど、先送りにできる問題は積極的に向き合わないことが僕の渡世術だ。今はとりあえず束の間の自由を楽しむことが大事。教授に研究室に来いと言われるまでは僕は自由だ。

 とりあえず手紙の返信を書くことにした。訳あってあて名は適当なハンドルネーム(偽名)で出してほしいと書かれていた。どんな訳があったらあて名に偽名を使うことがあるのかと思うでしょう。僕も正直事情が飲み込めていない。きちんと手紙が届くのかも分からない。もしかしたら配達員の人を困らせるかもしれないけど、偽名でも手紙が届くのか単純に興味はあるので了承して偽名を考えることにした。

 とは言っても僕の豊かでは決してない発想力でオリジナルのハンドルネームを考えるのは難しいので読まずに並べた本がたくさんある本棚を眺めてみた。『夜は短し歩けよ乙女』の黒髪の乙女が最初のインスピレーションで良さそうだと思った。なんとなく本人が喜びそうだ。でも、どうやらあの登場人物には名前が設定されていないようで諦めた。『はつ恋』のジナイーダが次に候補に挙がった。あの自由奔放で魔性の女っぽいかんじが良い。でもさすがに日本名の方が良いかと思ってあきらめた。あとなんか生々しすぎる。最終的に『キッチン』の桜井みかげをそのままハンドルネームにすることにした。特に理由はない。最近読んだから。

 自分のハンドルネームでもそうだけど形だけでも意味づけとかをしたくなる。キラキラネームが音にフォーカスしているのならば、まさにそれの反対のような。でも同じくらい幼稚さを感じる。本当はシンプルで深い意味なんて無いほうがいいんじゃないだろうか。自己満足で窮屈にしてる気がするのだ。だから、最近読んだからというのは良い塩梅な気もする。

 手紙を書くのも慣れてきた。とりとめのないことで良いのだ。このブログからクサさとイタさを抜いてやるかんじ。でも手紙やLINEのやりとりはしてもなかなか会えないのでつまらない。コロナは本当に罪深い!なんて思っていたら別の友達が久しぶりにみんなで飲みにでも行きませんかとお誘いしてくださった。素敵なタイミングだ。僕はとにかく人が恋しい。最後に飲みに行ったのは軽く半年以上前のことだ。お酒も恋しい。

 飲みの日程として採択されたのは僕の誕生日だった。たまたま成り行きでそうなった。おそらく友達たちは僕の誕生日を覚えていない。

 僕は人の誕生日を祝うのがあまり得意ではない。以前ルームシェアをしていたことがあるけど、それくらい距離が近ければ自然にお祝いもできるしプレゼントも用意できる。でもそれぐらいじゃないと恋人でもない限りちょっと気恥ずかしくで無理だ。いきなり「誕生日おめでとう!」ってメッセージをLINEで送るのも抵抗があるし、プレゼントなんて論外だ。自分がしてもらったら嬉しいのにね。自分がしてほしくないことは人にもしないようにしましょうって小学生の道徳の時間で習った気がするけど、あれって逆も然りかな。

 そんなかんだで本当は祝ってもらいたくもあるけど、自分から「誕生日なんだ!期待してるぜよろしくう!」なんてアピールはできない。渡世がへたくそだ。せめてLINEの誕生日くらい設定しておいたほうがいいかもしれない。今からではわざとらしくて設定できないけど。

殻に閉じこもりそう

 院試が終わって1週間が過ぎました。今となっては院試の結果なんてどうでもいいやと思っています。受かっていたら、これからさらに頑張るしかない。落ちていたら、親に頭を下げて笑い飛ばそう。院試に落ちてしまったほうが何か解放されたような気分になれそうだと思っている自分がいます。あんまり急いで真っすぐ生きてみても何かを取りこぼしてしまうことだってあると思うんです。ボーリングだって少し真ん中からそれた変化のついたボールのほうがストライクがとれるじゃないですか。......落ちていたときの言い訳にもなりませんね。

 院試に合格していようが落ちていようが、留年と隣り合わせであるこの身の上は変わりません。期末テストやレポートを控えたこの時期はとにかく踏ん張りどきなのですが、どうにも勉強に身が入りませんね。やらなきゃいけないことがあれやこれやある、っていうプレッシャーに晒された精神状態にあるだけで逆に何にも手がつかなくなってしまう。1日1ターン制っていいましょうか。今日は量子力学のレポートをやった。研究室のゼミに出た。バイトに行った。そんな何かひとつのタスクをこなすと1日の他の時間は無気力に過ごすほかできないんです。単位も既に取り終わっていて院試が終わって束の間の余暇を楽しんでいる友人がとても羨ましい。今まで怠けていた自分が悪いのは分かっているんですがね。隣の芝生は青くて、世の中理不尽な気がしてしまうんです。正論なんて聞きたくない。

 そういう訳で本当は時間はあるんですけど、最近はブログの更新の頻度がますます下がりぎみです。あとそうだな、日々の生活に何の彩りもないので日記として書きたくなるようなこともさほどないんです。ピアノの同じ鍵盤を「ボーン、ボーン」と人差し指で単調に押しているような生活で、どこかに遊びに出かけることも、だれかとお酒を飲むことも、新しい出会いのひとつだって今年の春からなんにもない。逆に崖から突き落とされるようなすごくつらい経験もなくって、ベランダにゆっくりすこしずつタバコの吸い殻をためながらゆるやかな下り坂を歩いているような日々です。

 そんな覇気のない毎日なのに、塾講師のバイトを辞めたいと最近思っています。特別バイトがつらいことは何もないんですけど、最初に自分を誘ってくれた友達が辞めると言い出したのでバイト先に仲の良い人がひとりもいない自分はそうなるともう続ける理由はないかなと。以前やっていた居酒屋バイトもあまり誰とも仲良くなれなくて、そのくせだらだらと1年半ほど続けてつらくなった経験からみても、さっさと辞めるべきだと思います。ただ前述した通り、生徒とおしゃべりすらしなくなったら本当に無気力に飲み込まれてしまって殻に閉じこもって中身はぐちゃちゃになってしまうのじゃないだろうかと自分がすこしだけ心配になったりもします。それにバイトを辞めるときはいつもそうですが、どういうふうに塾長に切り出せばいいものか、僕はこういうの得意ではないんです。明日、勇気をだして連絡を入れようと思います。今日は、まだ勇気が出ないかな。

 そうだ、脈絡がないですが、最近新しく始めたこともありました。少し前にギターを買いました。Amazonで1万円くらいのアコギをポチって、ギターの弾ける友達に教えてもらいながら練習しています。コード4つだけで弾けるので初心者向きらしい『Stand by me』を練習中です。まだあまりうまく弾けないけど、指の先の皮がむけて再生して固くなってきただけで、なんだか成長できたような気がして、ちょっとだけ満足しています。

そのうち出てくるかな

 ヘアピンを2つ見つけた。無くした部屋の鍵を探していたら、ベッドの下から発見された。

 僕はヘアピンを使わないし、これの持ち主の心当たりは1人しかないのでその彼女が忘れていったものだろうと察しがついた。カノジョでもないしセックスをする仲でもない。

 最後に彼女が来たのはいつだったかなとLINEを見返すと4月の頭のことだった。

 その後も部屋の隅々まで鍵を探したけど、ベッドとベランダとの隙間とか机の下の壁際とかの埃の積もっているのばかりが発見された。蓄積された時間を吸い取るようにコロコロをかけた。結局鍵は見つからなかったけど、出てこいと思っていると出てこなくて、なんでもないときににひょっこり姿を現すだろう。鍵に限らずそういうものだ。

 そういえば彼女は「邪魔だったら捨てといて」って言ってたけど歯ブラシも置いていったのを思い出した。普段使わないコップに立てかけていたので邪魔にならないしなんとなく捨てずにいた。例えば僕の母さんが独り暮らし僕の部屋に突然やってきて、2本の歯ブラシやヘアピンがあるのを見たらうるさいだろうなあとふと思った。今までは気にも留めていなかったのに僕の目線より少し高い位置にある彼女が置いて行った歯ブラシが存在感を誇示するかのようににわかに光を放っているように見えて、まぶしいので足元のごみ箱に捨てた。

 スーパーに行くために外に出た。空気はアスファルトの上に溜まっているみたいでなまぬるく、セミの声はどこか遠くから聞こえる。首にタオルをかけたおじさんが背をまるめてとぼとぼと歩いている。いつのまにか夏だ。気だるい、短すぎる夏だ。今年の夏は部屋のなかにふさぎこもって気だるさと手をつないでいたらもう8月だ。今年の4月から7月は本当にちゃんと過ぎていったのだろうか。神様なるものがいたならばどこかでごまかしてさっさとカレンダーをめくってしまったんじゃないだろうか。

 帰ると、机の上に置いていたヘアピンが目についた。捨てても構わないだろうとも思ったけど、なんとなく将棋の駒を入れている箱に一緒にいれておいた。そういえば前に貸した将棋の本読んだのだろうか。きっと読んでいないし、どうでもいいや。

 この前とどいたはがきに「こんど無断で遊びにいきます」と書いてあって、無断なのはともかく今度っていつなんだとか思っていたけど、気にしないことにした。それより部屋の鍵はどこに隠れてるんだろう。

もう留年したい

 最近、いっそもう留年したいとよく思う。

 留年してまで真剣に取り組みたい何かがあるというわけではない。ただ、夢も志の1つすら持ち合わせていない自分と先の見えない漠然とした不安から1年ぐらい自由になって、気ままに怠惰に過ごすことができたら楽なのになあと思うのだ。時間さえあればやりたいことはたくさんあって、本当は上手に時間を作ればできるはずだけど慢性的にのしかかる不安が邪魔をする。無意味な時間ばかり積みあがる。それならいっそ、と。

 世界一周をするとか、専門分野を学ぶためにインターンやバイトに取り組むとか、そんな立派で高尚な理由のひとつでも掲げれば世間や両親は許してくれるだろうか。くだらないやりたいことのいくつかじゃ理由にならないだろうか。それともどこかの病院からうつ病の診断書でもどうにか書いてもらえばいいだろうか。1年や2年の浪人や留年もしくはひきこもりとか、人生立ち止まったことのある人など珍しくもないし事実自分の周りを眺めまわしてみればたくさん見つかる。別に僕もちょっとぐらい立ち止まってみてもいいじゃない。そうでしょう?

 1か月後には大学院試験がある。今さらだが、今になってこそ思う。僕は大学院に進学しなくても良かった。僕が大学院に進学する理由は、就職(活動)が面倒だったからだ。周りをみれば進学する方が多数派だから流されただけだ。それで大いに結構だとは思っている。理系は特に修士卒という学歴だけで価値があるというのもあるけれど、人生上手に流されるだけでも大変だ。流れに逆らって自分の力で泳げる魚もいれば、自力で泳ぐことも流れに身を任せることすらもままならない魚もいる。流れのない場所は意外と心地よかったりもする。僕は流れにうまく乗れない魚な気がする。大学院生をやっていくには僕は今まであまりにも勉強をしてこなかった。ついでに専門分野に全く興味が沸かない。教授はもちろん研究室の先輩やその他の同期とも温度差を感じることが多い。場違いだ。

 自分語りは痛いと思うのだけど。中学生のとき、僅か学年50人程度の田舎の学校では一番勉強ができるほうだった。高校に進学すると、所謂「自称進学校」の地元の公立高校ですら自分より勉強ができるやつなんていくらでもいた。井の中の蛙は大海どころかそこらへんのため池ですら大きくて渡りきれないと思った。それでも小さなプライドだけは手の中から零れ落ちないように、そんなものですら傷つかないように、身を捧げるような努力などできず適当な大学に進学した。単位さえ取れればあとはどうでもいいってかんじの典型的な大学生となり、それでも留年という脱落者のレッテルに怯え、留年の危機をかいくぐって4年生まで来た。単位はたくさん残っている。

 人生で1番つらかったことは中学生の夏休みの駅伝の練習だと思う。毎朝鬼のように走らされた。地獄だった。毎朝自ら地獄に赴くのは憂鬱で仕方がなかったのだけど、そんな僕に対して父は、「今頑張れば後の人生多少つらいことがあっても潰れないようになる」と語った。ただ当時の僕はサボる勇気すらなかっただけだったのだけど、今でもこの言葉を覚えているくらいだからやはりモチベーションになっていたのかもしれない。

 試験勉強は未だほとんどしていない。もうどうにでもなれと自暴自棄になりつつある。だけど、試験を受けるのなどこれで人生で最後になるかもしれない。なにかに真剣に取り組める機会はこれで最後かもしれない。ぶっちゃけ院試など適当に受けても合格しそうな気もするけど、僕は潰れなかったと後になって振り返ることができたならばちっぽけなプライドはもうぶん投げられるだろう。公式の発表がある前に教授が試験結果をこっそり教えてくれるのが例年のしきたりとなっているらしいが、その時に「けっこういい点取れてたぞ」と言ってもらえれば、それでいい。もうそしたら胸を張って留年していいと思える。だから、今だけめっちゃ勉強してみようと思う。

日曜日の早朝からの記録

 日曜日の早朝、久しぶりに今日はいい天気になりそうだというのに虚無感がひどかった。寂しいので、ChatPad というサイトで女の子のふりして適当な人とチャットをした。

 最初にチャットをしたのは若い女の子で、韓国のどっかのアイドルがマジカッコよくてマジヤバイから教えてやるよと言われた。切れ長の目にさらさら金髪のどっかの韓国のアイドルが全身黒い服に身を包んでクネクネとエロさをまき散らしてダンスをしている動画を見させられ、「韓国ううって感じでいいよね!!」とその子は僕を置いてけぼりにして盛り上がっていた。最近 Yahoo!ニュースの日韓関係について言及している記事なんかを見ると嫌韓感情まるだしの右寄りで過激なコメントが大量についていてそのコメントらに大量のいいねがついていたりするけど、そんなコメントをしてはいいねをする彼らがこの動画を見てこの女の子とチャットをしたらどう思うだろうなんて素朴に思った。「エロいと思う。けどタイプじゃない」と女の子のフリをしつつ素直に感想を述べていたら、チャットが唐突に途切れてしまった。ちなみに僕が女性だったら鈴木亮平とかと結婚したい。

 次に喋ったのは出会い系で知り合った美人の女性と結婚したという30そこそこの男性で、2時間以上にチャットが続いた。最近読んだ小説の登場人物の白湯子という女性をベースに2人いる姉や研究室の同期の女の子をモデルにして、 "22才の女子大生" はチャットをすればするほど鮮やかに映し出された。そのうちモデルたちの枠組みから飛び出してどんどん自主的に自己を語りだしていった。相手の男性は若くて少し愛想が悪いけどセクハラ気味の会話にもキモイとか言いながらも付き合ってくれる女の子とチャットができて楽しかっただろうか。本当は画面のこっち側にいるのはどこにでもいるような怠惰な男子大学生だし、同じようにあるいは画面の向こう側にいるのは孤独な中年OLとか年端のいかぬ小学生かもしれないけど、誰だって違う風に生きられるし生きられたのだし、人生に自信がもてるならば、自分が誰であろうと相手が誰であろうとその誰かとなんら変わりはなく、さして重要なことではないのだ。

 その男性の奥さんが起きてきたようでーその男性には奥さんがいてそのときベッドから出てきたのだー唐突にチャットは終了した。いつのまにか外はすっかり明るくなっていた。徹夜したにも関わらずまだ眠る気にはなれなくて、提出期限が明日になっていた課題を2時間かけてやることで脳を活発化させた。逆効果だったか、少し眠気を感じたけどやはり眠りたくなくて、いっそ外に出かけることにした。鏡にぼさぼさの頭をした自分を見て美容院に行こうかと思ったけど、鼻の横に赤く痛々しいニキビができていたのに気が付いたのでやっぱりやめた。どちらにせよ重要なことではない。シャワーを浴びて、誰に見せるでもないけどなるべくおしゃれな格好をしてみてニキビを隠すようにマスクをつけて、鞄に勉強道具をつめこんで外にでた。

 気まぐれにブックオフや書店に行ってから、久々に喫茶店に行った。昨今の東京は緊急事態宣言中以上にコロナが流行っているらしいのに日曜日のお昼の喫茶店にはたくさんの人がいて、いつも僕が使っていた店の端っこ喫煙ブース近くのテーブルも使われていた。ちょっとは自粛せんかい、と自分勝手にも心の中で悪態をついた。本当は勉強をしようと思っていたけど、いつもの席に座れなかったので読書をすることに変更した。どちらにせよ重要なことではない。新潮文庫の100冊からチョイスして買ってきたカミュの『異邦人』を呼んだ。最近になって海外の本を手に取るようになって思うことなのだけど、海外の本は選ばれた一部の本たちしか一般的な書店では買えなさそうだ。僕の行動範囲にある2つの書店にもブックオフにも眺めれば眺めるほど全く同じラインナップの本が並べられている。気取った誰かがネットでおすすめしている本なんて書店で在庫検索をしても×印ばかり表示される。ちなみに、以前ブログで触れたまとめて10冊ほど買った海外の本はまだ2冊ばかりしか読んでない。僕もどっかの誰かみたいに気取ってみたいだけだから、とりあえず買っとけば満足する。そのうち読むさ。ちなみに『異邦人』はよく分からなったけど、とても面白かった。

 家に帰ったときには外はほとんど暗くなっていた。寝不足で頭が痛くなりだしていたのでおとなしく横になった、けど21時前には目が覚めてしまった。相変わらず頭痛がしていた。コンビニで適当にごはんを買ってきて食べた。全く勉強することなく主にネットで将棋を指しまくっていたらいつのまにかまた太陽がすっかり顔をだしていた。頭痛が本格的にひどくなっていて、バカバカしくなった。今度こそ眠った。ベッドからはい出したときには20時だった。4限はサボってしまった。「勉強しよー」と正午前に友達からラインが来ていた。なんでこんな時間にこんこんと眠りこけていたのかなあととても後悔した。「ごめん寝てた」と返信した。頭痛はすっかり治っていた。漫画みたいな音をたてて腹が鳴った。ちゃんとお米を炊いて料理をして健康的なご飯を食べた。ところで、院試が1か月後にあるというのに本当に勉強してなくてどうしようマジヤバイ。

バイバイ我が家の愛犬

 実家で飼っていた犬が死んでしまった。今日、母さんから家族のグループラインで伝えられた。

 ミナトという名前で、僕が小学1年生のときの15年くらい前から飼っていた。実は、1年くらい前にこのブログに写真を載せたこともある。もう既にかなりのおばあちゃんで、いつ死んでもおかしくないかんじだった、と1年前に書いた記事を振り返ってみたら書いてあった。なんだかんだで長生きしたもんだなあと思う。

 ミナトは最近ではもうかなり弱っていて、よたよたとしか歩けなかった。それでも食欲はあったようで、最後の夜ご飯もしっかり食べたらしい。最後まで食い意地のはった犬だった。

 昨日の夜遅くに父母が家に帰ると、ミナトは車庫で大量の血を吐いて倒れていたらしい。その時はまだ息はあったみたいで、ミナト、と呼びかけられると必死に立ち上がろうとしたけど、もうどうにも力がなかった。

 血だらけで、死にそうで、ふこふこ言っていたけど、父母はどうにも寝ないわけにもいかなくて、夜、ミナトを独りにして寝たらしい。

 今日、父母とおじいちゃんおばあちゃんとでお墓を作って埋葬したそうだ。

 最初母さんからのラインを見たとき、僕は宿題のレポートをやっていて「あっミナト死んじゃったんだ......」とつぶやいて、ラインを返すの面倒だなあなんて思った。ラインを返さずに、宿題やらなきゃってレポートの続きをした。

 1,2時間後にラインを読み返して、愛犬が今にも死にそうってときでも人って眠くなるんだなあなんて思った。やっぱりなんて返したらいいか分かんないなあとか思いながら、「長生きしたよね」とだけ返信した。

 それから、そういえば前にミナトの写真ブログに載せたことがあるっけと思い出して、もう一度読んだ。それで、今これ書いて、ふこふこと言っていたけど......って書いたあたりで、ミナトの写真ってもっと撮ってなかったかなって。スマホのアルバム漁ったりして。ほんのちょっとだけ撮ったビデオを見つけて、そこに映ってるミナトは「ミナト」って言われるとダッシュで駆け寄ってて、昔は元気だったんだよねって。お墓はどこに作ったのかなって思った。きっと、最後は苦しくて寂しかったろうな。

「センセー、そんなに出されてもやんないって、あ」

 宿題を少しでも減らそうと訴えていた中学生の生徒が、すりガラスの窓の方に目をやって言った。

「もしかして雨降ってる?」

 たしかに窓の外側には水がつたっているようで、耳を澄ますとサーっと音が流れていた。「うわ、サイアク。自転車で帰んなきゃいけないのに」とか言っている彼を半分羨ましく思った。

 

 授業が終わったとき、おそらく新人であろう女の子が授業のことで僕に質問してきた。自分より後輩がもう何人もいるはずだけど未だ新人塾講師の気分の僕は、珍しく質問されたものだから少し戸惑った。

 たまたま答えられることだったから良かったけど、長く働いている人に聞いたほうが無難なのに。いや、新人の子からしたら誰が長く働いているか見分けがつかないか。僕だって未だに名前を覚えていない人がたくさんいるし。そうだな、髪色が明るい人はなぜだか長く働いているような気がするなあ。

 そう気付いて、僕も少し昔の明るい髪色のままのほうがあるいは良かったのかもしれないとふと思った。

 

 外に出ると、雨は大粒になっていて容赦なく降りつけていた。うるさいくらいだった。傘は持ってきていなかった。

 そのうち誰か同僚も出てくるだろう。ぐだぐだしていないでさっさと帰ろうとして、いやまてよ、むしろこれはチャンスなのかもしれないと思い直した。あてのない期待に、数分屋根の下にいた。数分経って、一度教室に戻ってみようかな、とこれまたあてもないのに考えた。カウンターや裏のブースでおしゃべりをしているであろう同僚たちを思い浮かべて、やっぱり無理だなとまたまた思い直した。

 近くのコンビニまでは500mぐらいある。それならもう家まで帰っても大して変わらないか。

 覚悟を決めて雨の中うつむき加減で速足で歩き出した。傘もささず雨の中を歩くと変に目立ちそうなのが嫌だったけど、家までの距離を走りきれる体力はない。

 1つの傘を仲良くシェアしている男女とすれ違った。男性のほうの肩がびちょびちょで、全身びちょびちょの自分が惨めに感じた。やっぱり全力で家まで走ろうか。でも、そうしてしまうと僕の体の表面をうすく覆っている何かが破れてしまいそうな気がして、代わりに胸を張って歩いてごまかした。ますます雨が服にしみ込んで重たくなった。

 今はとにかく誰にも会いたくない。一刻も早く家に帰ってシャワーを浴びたい。もしも誰か僕の友達の1人が僕を見かけたとしても、気づいていないふりをしてほしい。さもなくばその場で自分の持っている傘を投げ捨てて一緒に走ってほしい。

 誰かバイトの同僚に、途中まででも傘に入れてもらえば良かったのに。でも教室からの帰りしなに一緒のエレベータに乗るのすら息がつまりそうだから避けているのに? 自分から頼む勇気がないから、誰か優しい同僚が「傘、入ります?」なんて声をかけてくれないかと待つことしかできない。ろくに話したこともない人にそんなこと言えるかっこいい人いるかな? やっぱり、さっさと雨の中に飛び出していくべきだった。もしぐだぐだしている間に誰かが出てきたら、屋根の下途方にくれている僕を横目に無言で傘をさしていくだろう。そんなのお互い気まずいだけだ。でも、雨は冷たいし。